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『一般の星』

そんな星になりたかったわけではない。

そんな星の話を聞いてください。

高校最後のインターハイ。2回戦で敗退した僕は一般入試での筑波大学入学を目指した。僕の高校は進学校の公立高校だったため勉強に関してはある程度自信はあった。その上、僕が希望していた筑波大学体育専門学群の2次試験は実技試験がメインである。そのおかげもありなんとか筑波大学に入学することができた。いわゆる僕は一般組だ。

強豪校出身でもなかった僕にとって筑波大学柔道部は夢のような練習環境だった。初めて筑波で練習した時の感動はいまでも覚えている。打ち込みの最中、右を見ればオリンピック銀メダリストの平岡拓晃さんが、左を見れば世界選手権金メダリストの福見友子さんが同じように打ち込みをしている。道場を見渡せば世界で戦っている選手たちが同じ空間で練習しているのだ。高校1年生のときの部員が男女合わせて5人ほどだった時と比べれば天と地の差だった(高校での経験はまた別の機会に書こうと思う)。自分より強い相手と毎日乱取り稽古が出来ることがとても楽しく、自分はもっと強くなれるんだと信じていた。推薦入試で入ってきた同級生はインターハイ上位、強豪校出身だったため、正直少し引け目を感じていたこともある。でも一般生だからという理由で妥協ししたり、試合で負けた時の言い訳にはしたくなかった。

厳しい1年間を終え2年生へ進学する際には6人いた同期の一般組は僕を含め3人になっていた。2年生になると部員として役職を持たなくてはいけなくなる。その一つが主務だ。主務はいわゆるマネージャー業務。試合の申し込みや宿泊の予約、先生と選手間の連絡役などだ。捉え方によってはやりがいのある仕事であり、部のために身を呈して貢献で出来る素晴らしい役職だと思う。でも僕はしたくはなかった。なぜならば僕にとってそれは戦力外通告の何物でもないからだ。強くなりたい、日本代表になって世界で戦いたい。そう思って入学した僕にとってその役職を命じられた時は正直ショックだった。今思うといい経験であり、そのおかげで ”なにクソ根性”に火をつくきっかけになったのかもしれない。

主務という役職は僕に貼られた “一般組” というレッテルを強く意識させた。それは自分が意識したくなくとも、暗示のように言葉の端々から感じてしまう。乱取り稽古で自分より格上の選手といい勝負をすれば、”一般なのによくがんばるなぁ” と言われ、練習試合などで勝ちを収めれば “最強の主務” などとも言われた。それらの言葉は悪気があって言われた言葉ではなく、むしろ僕を褒めてくれていたのだろう。半分嬉しい気持ちもあったが、半分それを認めたくない自分もいた。まだまだ僕はやれる、世界で戦いたい。そんな夢を心の奥底にずっと持っていた。

大学3年生になった時、その努力が少し実った。講道館杯で5位入賞。それと同時に全日本選抜柔道体重別選手権への出場権を得ることができた。すごく嬉しかった。ようやく推薦生と肩を並べて堂々と練習ができる。僕の柔道選手としての可能性を認めてもらえる。そう思った。

『お前は一般の星だよ』

みんなはそう褒めてくれた。嬉しかった。

でも僕は一般の星になりたかったわけではない。5歳の時から変わらず、日本代表になり世界で戦いたかった。”一般の星”、この褒め言葉は嬉しかった反面、僕の限界を告げられたかのような言葉でもあった。一般生として良くやったよ、これが限界だよと。一般の星と言われるたび、「いやいや、僕は一般とか推薦とか関係なく初めからここまで到達できるって信じて頑張ってたのに。。。」と思う自分がいた。また誰一人として「お前はまだやれる」「日本代表や世界を目指すにはもっとこうしていけ」というアドバイスはくれる人はいなかった。知らず知らずのうちに自分の中あった根拠のない自信が削られている気がした。

もちろんわかっている。そんなことを言い訳に自分がそのレベルいけなかったと言いたいわけではない。むしろその辺りこそがトップアスリートとそこに到達できなかった選手の違いなのだろう。4年生になった時には『一般の星』というポジションに心地よさを感じ始めていた自分もいた。結局、自分を信じ切って努力することを怠った結果がその後の試合結果として現れていたのも事実だ。現役時代に後悔はあるかと聞かれたら、後悔しかない。

現在スコットランドナショナルチームのコーチという仕事に就いて、コーチングの現場で多くのことを学ばせてもらっている。言葉の選択やタイミングは時に選手のモチベーションを大きく変化させる。自分の過去を振り返り、言われて嬉しかった言葉や言われたかった言葉を思い返すのも自分が目指すコーチ像を描くヒントになる。どんな選手のモチベーションも言葉かけ一つで引き出せる、そんなコーチになりたいなとまた一つ自分のコーチ像に色を塗ることができた。

では今回はこの辺で。

Cheers

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